当教室の卒業生、SH(工学部4年生、大石小学校出身)が東大生の生活を不定期にレポートします。教室に通ってきている小学生、中学生にとって「大学」とはまだ遠い世界のことだと思いますが少しでも身近に感じてもらえると嬉しいです。(2023年5月ニュースレターからの掲載です。)
第5回:エジプト訪問記 – 大学の国際研修
2023年3月の10日間、大学の学科の国際研修としてエジプトを訪問してきました。主な目的はスエズ運河の運営拠点や運河に関連した開発の現場を訪問することでした。
スエズ運河とはアフリカとアジアの境目に人工的に作られた巨大な水路のことで、現在はエジプト政府によって運営されています。かつてインド洋から大西洋に航海するにはアフリカ大陸を回る必要があったのですが、運河を利用することではるかに簡単にアジア・ヨーロッパ間を行き来することができるようになりました。
運河を通行する船から通行料を取ることはエジプトにとっても重要な収入源です。フランスの企業に利益の大半を奪われていた状況からエジプトが大きな犠牲を払って国有化を達成した歴史や、およそ1兆円の投資を集めて2014から2015のたった1年で運河の容量を倍にする工事に成功した経緯を学び、エジプトとその国民が運河にかける熱量を読み取ることができました。
また、運河は国際物流の重要地点として毎年1.5万隻以上の船が通過しており、日本を含めた多くの国の企業が運河沿いの開発に力を入れています。今回は豊田通商が主導する自動車ターミナルの建設を見学し、運河の中に巨大な駐車場を作ることで荷物の積み替えがこれまでよりも効率的になることを学びました。
一連の見学を通じて、単なるデータには現れにくいものの、分析において重要となる国際物流における各プロセスの実際の様子や現場の声、エジプトに特有の課題などを自ら体感することができました。
次にエジプトで印象的だった点を2点ご紹介します。
1. 交通の仕組み
ほとんどの交差点には信号がなく、交差点では自由に右折ができる一方左折は禁じられるルールで交通が成立しています(車は右側通行です)。ですから、左折をしたい場合には一度右折をしたあとでUターンをして同じ交差点に戻ってくる必要があります。とくに首都のカイロでは常に深刻な渋滞が起こっているため、30分以上運転したのに同じ交差点に戻ってきただけ…ということもありかなり絶望的です。また、歩行者はタイミングをみて道路を渡る必要があり、とくに高速道路でかなりのスピードを出して走る車の間をすりぬけて横断する人々を見るだけでヒヤヒヤしてしまいます。稀に警察による手信号やロータリーもあります。
2. 雨への対応
エジプトは国土の大半が砂漠気候であり、年に5回程度しか雨が降りません。ですから街も雨に対応した仕組みになっておらず、日本では少量といえる雨に対しても大きな被害を受けてしまいます(5cmの積雪で東京の鉄道が乱れるのと同様です)。
まず、足元にあるのが土壌ではなく砂地や岩であるため雨水が吸収されず、大量の雨水が川沿いに集まって洪水を引き起こす問題があります。アスファルトで舗装された都市部においても、水を流す水路がないので水は道路にあふれ、家の中に大量の水が押し寄せてきます。ですから10mm程度の雨で洪水や交通事故などの問題に悩まされてしまうのです。
多くの日本人にとって、エキゾチズムにあふれるエジプトは人生に一度は行ってみたい国となっており、結果として訪れる観光客は高齢の方が多いです。ですが、巻き起こる砂ぼこりによって立っているだけで体力を消耗しますし、ピラミッドなどの遺跡の内部でも腰を屈めての移動ばかりですので、興味をお持ちであれば若いうちに訪問することをお勧めします。